父はいつも出張だった。2週間に一度会うか会わないかの父は、よくバターサンドを買ってきた。父は「北海道の偉大な名物だ」と繰り返した。私は「チョコレートの方がおいしい」と繰り返した。
本当はあの、しつこいような、けれど暖かい甘さが好きだった。おいしいとは言えなかった。言いたくなかった。いつも近くにはいなかった父。授業参観にもこなかった父。おいしい、なんて言ったら、やられっぱなしじゃないか。
ある日父は仕事に行き、棺に入って帰ってきた。何も死ぬときまで出張に行かなくても。お通夜も、お葬式も、四十九日も、泣かなかった。悔しかった。しょうがないとは思ったけれど、腹さえ立てた。
そんな私も働くようになり、毎日は目まぐるしい。証券会社、営業。夏休みも春休みもない。朝も夜もない。そういう毎日にあって、北海道に出張に行き、バターサンドを食べる。昔より甘く感じる。味が変わったんだろうか、私が父に近づいたんだろうか。
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